6月30日の日記で紹介したスーパーレディーおばさんの真澄さん宅でクラシックのコンサートがありました。それもピアノとコントラバスの演奏と言う珍しい組み合わせ。
ベースはピアノと同じくらいポピュラーな楽器ですが、ほとんど表に出て主張することはありません。ロックバンドだってベーシストがリーダーのバンドは多いのに目立たず、ベースで注目されたのはビートルズのポールマッカートニーやKISSのジーン・シモンズなどわずかでしかありません。ドリフのいかり長介さんもベーシストでした。
クラシックとなればなおさらで、必要不可欠なパートにも関わらず協奏曲は少ないし知られていません。ロックやジャズの影響でベースと言えば指で弦をはじいて弾くピッチカートが主流で、弓で弾くボウイングの音を聞く機会も少ないので、素晴らしいチャンスに恵まれました。

元々は市民のオーケストラとして発祥した群馬交響楽団。NHKの「プロジェクトX」で取り上げられたこともありますが、クラシックと言っても簡単にコンサートに人が来るわけでもありませんし、運営に苦しむ時代もあったそうです。そこで群馬交響楽団が編み出したのがオーケストラの学校回り。私達が子供の頃は毎年群馬交響楽団が各地の学校を回り演奏をしてきました。文化流布の草の根運動です。おかげさまでクラシック音楽に対するかしこまった権威主義と無縁に接することができます。
コントラバス奏者は岩木春彦さん。群馬交響楽団で活躍しています。
伴奏のピアノは作曲家・編曲家の仲岡零さん。
開幕前の音あわせの光景。

真澄さんは娘さんがピアノの練習用に使っていた部屋をを改造して演奏会ができるホールを作ってしまいました。
肩書き用の習い事にピアノなどを習わせる親は多いけれど、自分で音楽が好きになってここまでのめりこめる人は少ないです。しかも、耳が肥えているのですごい演奏家を見つけ出すことに長けているスーパーレディーおばさんです。
正装を決め込んで出かけるクラシックも良いけれど、息遣いが聞こえる間近で接する音は一味も二味も違います。

クラシックの音楽会と言えば、パンフレットにメニューが並び、余計な解説が淡々と書き連なり、演奏者の肩書きが長々と書かれているもので、観客は演奏の最中にそれを必死に読んで暗記して、聴いてきた様な気分になるものです。
上の写真のように余計なことは一切書かれていません。余計なことよりも音楽そのものを楽しむ。あえて曲の成り立ちなど書き連ねなくても子供の頃からオーケストラの演奏が学校に来ていろいろ聞いています。
演奏の前後にはフォークコンサートばりの面白い話があり、ここで説明が聞けます。

演奏はいきなりチェロの名曲として知られるサン・サースの「動物達の謝肉祭」の中の名曲「白鳥」で始まりました。通常なら演奏の最後やアンコールで用いられてもおかしくない名曲です。
HPのコラムでもちょっと触れたことがありますが、サン・サースの「白鳥」はロシアの名バレリーナの
アンナ・パブロワによって「瀕死の白鳥」として知られるようになり、バレエ「白鳥の湖」でもおなじみの足を細かく動かすパ・ド・ブレはこのときに世に広まっています。
ロシアのラフマニノフの名曲「ヴォカリーズ」、バッハの「G線上のアリア」フォーレの「夢の中へ」、ブルッフの「コル・ニドライ」と続き、”これをコントラバスで弾いちゃうのか?”とびっくりするようなメニューでした。

仲岡さんのピアノソロで「ラ・カンパネラ」。バイオリンの巨匠パガニーニの名曲を、リストがピアノ用に編曲した難曲です。
作曲家や編曲家はピアノができて当然ですが、ピアノを演奏することのエキスパートのピアニストではありません。「ラ・カンパネラ」を弾きこなせる作曲家は少ないそうです。

私はロシアのキーシンが信じられないようなスピードで「ラ・カンパネラ」を弾くのを見て、”こんなものに手は出せない”とあきらめましたが、仲丘さん曰く「49歳の時に突然弾けるようになった」そうで、私でもまだ挑戦する月日があります。最初の8小節程度は私でも弾けますが。
リストは「超絶技巧」などの難解な曲がたくさんある作曲家ですが、メロディーも素晴らしいので、耳で聞くのと目で見るのとでは大違いの曲があります。
超絶技巧の「鬼火」なんて曲は弾いている姿を目にするととんでもなく難しいことがわかりますが、音だけを聞いていると美しいメロディーです。ただ単に難しい近年の難解技術物とはわけが違います。

休憩、ティータイムを挟んで後半はシューベルトのアルペジオーネ・ソナタ イ短調D.821.チェロの名曲ですが、これをコントラバスで演奏です。第三楽章まで演奏すれば20分を越える曲なので、チェロリストだってめったやたらに手を出せるような曲ではありません。主催者の真澄さんのリクエストだったみたいで、酷なお願いをしたものです。

私が高校時代に受験シーズンになると群馬テレビで「本日の大学合格者」の字幕放送があり、県内高校出身の合格者の名前が字幕で出て、そのバックミュージックがピアノソロでシューベルトの「ます」。いまだにこの曲を聴くと受験時代を思い出して不安な感情がわきあがってくるのですが、アルペシオーネのピアノ伴奏にも「ます」に似たフレーズが出てきて、一瞬冷やりとしました。
後半にはコントラバスの岩木さんのお嬢さんがバイオリンで飛び入り参加。桐朋学園の高校生です。

お父さんと二人でチャイコフスキーの「優雅で感傷的なワルツ作品56第6」を演奏。18歳の女の子がこんなに艶っぽい音を出せるのか?とドッキリするような19世紀のロシアンロマンスの香りが漂いました。

圧巻はモンティの「チャルダッシュ」。ジプシーバイオリンの名曲です。最初は妖艶で物悲しく引きずるように踊るメロディーから入り、突如激しい炎の舞のごとく盛り上がる曲ですが、いともたやすく淡々と弾きこなしていました。
さすがコントラバス奏者の娘さんだなと感心したのは、低音の安定感で、バイオリンの低音側のE線とG線は音が暴れるので特にG線を鳴らすのは難しいのですが、きれいな甘い音を出すので感動しました。

スラブ系、ジプシー系のメロディーが似合う少女だな、曲の個性に負けていないな、将来頭角を現してくるぞ!と期待しています。高校卒業後は日本の音大は金がかかりすぎるので外国に出してしまおうとお父さんが言っていましたが、こうした経験が身になりそうな心を持った少女なのでたのしみです。
桐朋の3Kと言うのを教えてもらいました「計算ができない」「漢字がかけない」「結婚できない」だそうです。
コントラバスとバイオリンの岩木親子の演奏でエルガーの「愛の挨拶」でコンサートは終了。
終了後、ピアノの仲丘さんの譜面を見せてもらいました。譜面台の限られたスペースに乗せるために、縮小に縮小を重ねた小さな譜面でした。

コンサート終了後は居間で座談会。演奏者と膝つき合わせて話ができる機会などめったにありません。
音大目指している女子高生が進路相談をしていました。日本のクラシック会の師弟関係の義理人情と親分子分の裏話など聞かされていました。
ショパンのノクターンの話題が出て、仲丘さんがピアノ室に行って追加公演。「戦場のピアニスト」に使われた曲です。

その一方で、私とコントラバスの岩木さんと盛り上がっていたのは、今日のコンサートに来ていた真澄さんの友人で、テレビの司会やイベントの司会などで活躍していたマドンナの女性の結婚を巡って。
絶対結婚しないだろうと噂されていたのに、8年前に突然結婚してしまいました。私より年上の女性ですが、今でも美しくエレガントです。岩木さんも彼女のファンだったようで、恋敵だったんですな。
「あなたのように美しくてエレガントな女性が何で結婚してしまったんだ」「永遠のマドンナが普通のおばさんになってしまったじゃないか!」と二人で問い詰めていました。
「なんで私が結婚しただけで責められるんですか?」「あなたが美しいから!」
やはり、10年前に人間国宝か特別天然記念物にでも指定しておくべきでしたが、当時は総理大臣が一年と持たないような日本の混乱期でした。国がしっかりしていれば今頃世界遺産になっていたかもしれないのに、美人の結婚は国家にとって損失。俺達の青春を返せと騒いでいる横で、岩木さんの娘さんが「おじさん二人がいい歳して何馬鹿なこといってるの?」とあきれてました。

お開きになったは夜中の11時過ぎ。マドンナと一緒に仲丘さんと岩木さん親子を見送り、私も峠を越えて家に戻ったのが12時過ぎでした。
得がたい経験ができた一日でした。